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Day_154 : (In Japanese) 災害からの復興

かなり前に書いたメールマガジンのコラムですが、内容は、色あせていないので、復習を兼ねて、これから数回にわたり掲載致します。(同様に英語版も順番に掲載していきます。)

2010年3月5日発行
再掲NIED-DILメールマガジン:2回】災害からの復興
□■災害からの復興■□
ハイチの大地震で復興はどのようになるのか、世界の注目は集まっています。
これまで復興についていろいろと調べましたが、考える指針の有効な理論とし
てハースという研究者らの「急速に成長しつつある都市は、被災後急速に復興
するであろうが、変化せず停滞し、あるいは下り坂にある都市は、被災後きわ
めて緩慢に復旧するか、あるいは急激に衰えていくであろう」(1977)があり
ます。この場合の成長する都市とはどういう地域かを考えた際、災害前の人口
の増加が結構指標として使えるのではないかと考えられます。実際、いろいろ
と調べたのですが、災害がどれだけ大きなものであっても、人口が増加傾向に
あった地域は、復興しやすいのではないかという予測です。例えば、伊勢湾台
風災害による名古屋市では、経済・社会的な災害の規模が大きく援助量が少な
かったのですが、一年とたたないぐらいあっという間に復興したといえる状況
になりました。比べて、ハリケーン・カトリーナ災害によるニューオリンズで
は、経済・社会的な災害規模としては、実はそれほど大きくなかったのですが、
援助量は膨大でした。にもかかわらず5年たとうとしているのに、復興はまだ
ままならないといってよい状態かもしれません。ニューオリンズは災害前から
人口の減少が著しく、サバイバルな都市とさえ言われていました。インド洋大
津波の被災地の復興についても、ここでははっきりといえませんが、同様な傾
向が多く見うけられます。
さて、ハイチの例に戻って考えてみます。ハイチ(ポルトープランス)の人
口増加率を調べてみると、災害前まで急速に増えていたことがわかりました。
人口という指標だけで考えるとハイチの復興は比較的早く成し遂げられるはず
ということになります。しかしながらハイチには上記の例では当てはめて考え
ることができない全く異なる社会状況が存在するとも考えられます。そのため
ハイチの復興は、政治の舵取りや社会状況という非常にわかり難い変数に大き
く左右されると考えなければならないのかもしれません。雑誌「エコノミス
ト」には、インド洋で起こった義援金や援助の問題、偏ったところに過剰に供
給され被害が拡大した事例など、と同様な問題がハイチでも起こるのではない
かと危惧する記事がありました。
皆さんはハイチの復興をどう考えますか。

2010年3月5日発行

Day_70 :災害対応と文化 [Japanese]

防災科学技術研究所 自然災害情報室のメールマガジン*第7号の記事を転載致します。
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先日、文化と災害対応について、面白い論文を見つけました。それは、オハイオ大学のロバート・ロス氏による論考です。1970年のかなり古い研究ですが、大変興味深く感じました。ロス氏は、自然災害の対応に影響を与える要因として地域の、宗教、技術、そして、特に自然に対する文化的価値観をあげ、それらが、その国々の制度のより中央集権型か地方分権型かという部分と相互作用するとしています。具体的には、東アジア、西欧、ラテンの国々の比較を行っています。
 例えば、東アジアの国々の災害対応は、西欧、ラテンアメリカに比べて宗教や技術の部分は相対的に低く、自然と調和することに重きをおく文化的価値観が大きく作用する。また中央集権的であまり分権化していないことも影響するとしています。一方、西欧の国々の災害対応は、ラテンアメリカや東アジアに比べて宗教的影響、技術は高く、自然を征服するという文化的価値観が働いているとし、それらが、地方分権型システムに作用するとしています。最後に、ラテンアメリカの国々の災害対応は、宗教的影響及び技術は中間とし、自然に対しては服従する文化的価値観が働くとし、比較的中央集権型システムと相互作用するとしています。
 かなり大雑把な分析で、現在に当てはまらないと思われる部分も多くありますが、解釈の仕方によっては、いろいろと考えるヒントを与えてくれます。例えば、2005年に起こったハリケーン・カトリーナ災害では、政府の対応が、うまくいかなかったと批判されていますが逆に、そのことが、コミュニティの災害対応の差を際立たせた側面があるようです。特に、ニューオリンズのアジア系コミュニティ、ラテンアメリカ系コミュニティ、そして西欧系コミュニティの災害前後の災害対応の違いがはっきりしたといわれています。
 コミュニティ単位で、ロス氏の考察を当てはめて考えると興味深いものがあります。
*防災科学技術研究所 自然災害情報室メールマガジン
自然災害情報室

Day_37: 伊勢湾台風災害, 流木被害, そしてフィリピン [Japanese]

伊勢湾台風とフィリピン、つながらないようで、実はつながっています。もともと、フィリピンに着目したのは、災対法及び防災科研が設立するきっかけとなった伊勢湾台風災害の流木被害(多くの犠牲者を生んだ)に興味をも ち、その関係を調べていると、その木材の90%はフィリピンからのラワン材 で、名古屋で加 工して、朝鮮戦争後の住宅ブームのアメリカに輸出するという構図に着目してからです。南区の犠牲者の多くがこの流木によって、家屋が破壊されたことによるものだったからです。これは朝鮮戦争からの流れ、アメリカの影響による木材の自由化などとつなが り、また、フィリピンの森林破壊(当 時輸出の8割強が日本)と日本の森林の 衰退とつながり、これが現在まで続くフィリピンの洪水、土砂災害日本の地震や 豪雨による地 すべりや、少し強引には花粉症問題がでているというのが見えてきました。

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Day_19:POCT 概略 [Japanese]

2015年の仙台会議で防災対策としてPreparedness(事前準備)とbuilding back better(よりよい復興)の重要性が強調されましたが、POCT(臨床現場即時検査)*はまさに今必要とされている災害対応の具体的かつ実践的な処方箋の一つであることは間違いないと思います。

POCTとはいったい何か、どんなメリットがあるかについて、一例をあげると、災害現場では、まずトリアージによって、患者を選別するかと思いますが、医師も人間ですので、瞬時にすべて上手く選別するにも限界があります。これが深刻な問題となっています。2005年の尼崎の列車脱線事故ではその問題が指摘されました。さらにいえば、緊急治療群として適切に赤タグを付けられた場合でさえも、そのグループに多数がいる場合、その中で誰を優先に搬送すればよいかなどの優先順位の問題が生じます。災害時には、医療は緊急性が優先されるために、瞬時の医師の判断が要求されますが、上手く分類するには、それだけの知識と経験が必要ですし、さらに上手く分類できたとしてもそのなかで優先順位をつけなければなりません。POCTは、この問題を解決に大いに貢献します。つまり、迅速に対応できる簡易臨床検査によって、これまでの経験による判断に数値的な裏づけが加わることを可能にします。そしてその事例も多くあります。**個人的には、将来POCTは、人口知能と結びつき、より効果的な医療が行われるのではないかと考えています。

なお私は災害の研究者であって災害医療については、まだ初心者です。もし間違いなどありましたらご指摘くださいませ。連絡先は、とりえず、リンク先のClass紹介サイトに示しています。

災害医療としてのPOCTに関する本を少しづつ紹介してみたいと思います。日本にはまだ適当な本が見当たらないため、以下の本の内容を中心に紹介していきます。

Source Book:
Kost, G. J. (n.d.). Global point of care: Strategies for disasters, emergencies, and public health resilience.

https://www.aacc.org/store/books/9200/global-point-of-care-strategies-for-disasters-emergencies-and-public-health-resilience

災害対応におけるPOCTの世界戦略(案)

<全体像>
本書は、災害対応に関わる世界のPOCT(Point of Care Testing : 臨床現場即時検査)に関する108の事例を55章にて紹介しており、将来の災害、疫病、緊急医療、及び公衆衛生に対するしなやかな対応力(レジリエンス)を高めるロードマップを提供している。ロードマップは、専門家に対してだけではなく、コミュニティにおるすべての人への災害、疫病、緊急事態、さらには、公衆衛生の危機的状況に際してのガイドとなる。それだけではなく、個人の健康戦略の構築にも役立つはずである。本書は、主に次の10項目の内容から構成されている。
第一は、POC (Point of Care)の現状及び将来の方向性
第二は、POCの基本的な概念の紹介
第三は、処方箋と処置を促進する工夫
第四は、命に関わる危機的状況にある患者への迅速な処方箋
第五は、POC検査器具の保守管理
第六は、災害準備体制やレジリエンスを高めるためのPOCの活用
第七は、GIS(地理情報システム)との融合による防災計画に対する貢献
第八は、過去の災害経験のPOCへの貢献
第九は、将来のコミュニティにおける災害準備体制やレジリエンスに関する情報
第十は、POCT(臨床現場即時検査)の戦略、公衆衛生政策、及びガイドラインの紹介

*Point of Care Testing
POCTについては、下記の日本臨床検査自動化学会の定義を参考にしました。
http://www.acute-care.jp/learning/course/immunoassay/poct/16041801.html

** Day_9 Day_11

Day_16 : GNOCDC

The Greater New Orleans Community Data Center (GNOCDC) website was found after the field survey on Hurricane Katrina in Louisiana and Mississippi in 2005. I was so amazed. This is one of the demographer’s great contributions to disaster research.
The site has the following:
http://www.datacenterresearch.org/pre-katrina/prekatrinasite.html

The site provides information on pre-Katrina situations in a parish. This is very useful to examine the social backgrounds of the areas in detail.
I wrote the paper by using these data to explain how human suffering was exacerbated by social backgrounds (sorry in Japanese; however, the summary and figures are in English).
http://dil-opac.bosai.go.jp/publication/nied_natural_disaster/pdf/41/41-05.pdf

 

Day_11 : POCTの利点は(No.1)[Japanese]

災害医療、簡易迅速検査POCTについて、POCTとはいったい何か、どんなメリットがあるかについて調べ始めていることを少しだけ書いてみます。

災害現場では、まずトリアージによって、患者を選別するかと思いますが、医師も人間ですので、
瞬時にすべて上手く選別するにも限界があります。これが深刻な問題となっています。

さらにいえば、緊急治療群として適切に赤タグを付けられた場合でも、多数がいる場合、その中で
誰を優先に搬送すればよいかなどの優先順位についても同様です。

災害時には、医療は緊急性が優先されるためにこのように、瞬時の医師の判断が要求されますし、上手く分類できたとしてもさらにそのなかでも優先順位がなかなかつけられないからです。

POCTは、迅速に対応できる簡易臨床検査で、これまでの経験による判断に数値的な裏づけが加わることを可能にし、上記の深刻な問題の解決に大いに貢献できます。そしてその事例も多くあります。

これから少しづつ書いていきます。

Day_9 : 臨床現場即時検査:POCT [Japanese]

偶然なのですが、POCT*の世界的な権威である先生と近くで仕事をしていました。災害医療としてその効果が期待されるということなので、ちょっと調べてみて驚きました。これはすごいと思いました。ついでに翻訳の話も頂きました。これから本格的に災害医療についても調べます。
2015年の仙台会議でも防災対策としてPreparedness(事前準備)の重要性が述べられましたがPOCTはまさに実践的にフィットするものだと思います。

*Point of Care Testing